August 28, 2015

なつやま 2/2

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その二


夜 少しだけ風が吹いていた

上の方だったので風に晒されるのが少し心配だったけど
そんな少しの心配も無用なくらいな それくらい ほんの少し、、、その程度だった

石を踏む音で目が覚めた
もう一張り分のスペースこそあったにはあったのだが 道は頭の直ぐ上だ

だから 涸沢岳へ向かうハイカーの足音で目が覚めた

幕越しにランプを照らしながら歩いているのが分る 
昨晩もそうだったけど こっちに向かって登ってくるので自然とランプの方向が此方を向いてしまうのだ


明るくなり始めると 昨晩の星観と同じ様にヘリポートに人が集まってきた
朝なので今度は日の出を拝むために

星観に日の出
そのどちらもテントの中で横になったままこなせるこの場所がトテモ気に入った
まあこの高さなので何処に張ろうが同じだけどね

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適当に食事を済ませると もうやることもなくなるので 早々に撤収にかかった

今から準備すれば五時くらいには歩き始める事ができそうだなと
なんと そんなに早い起床だったのだよ

しかし 小屋を挟んだ向こうに列を成した登山者が見えた瞬間
出発は少し遅らせたほうが無難かもしれないと そう思った

何故なら 小屋前のテラスで未だ多くの人たちが待機しているのが見えたのだ
勿論 そこに待機しているすべての人たちが上に向かう訳ではないのは判ったてはいたけど
それにしたって 仮にその三分の一が向うとする とするとそれは可也の人数だからね

あの大勢に混じって順番を待つか
それともここで テントを畳むのを少しだけ先延ばしにして ちょっとだけ様子を見るか
そんなのは考えるまでもないよね

一度片付けたストーブを出して湯沸かしにかかる 
そしてそのお湯が沸くまでと 五徳にポットを掛けてから横になった
しかし 何もしないで油断してると眠くなるので
横になったまま手をバタバタと動かす そして手に触れる物を手当たり次第に集めて行く
短い時間だったけど そんなものぐさ作業をしている間に陽が当たりはじめて
テントの中がほんわか暖かくなってきた

一度起き上がってお天道様の高さを確認してまた横になる

幸いにして寝落ちる前に湯が沸いたので珈琲にした

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奥穂へ向かう人の列が消えたのを見計らってのぼり口に向かうと
出発する一人ひとりに声を掛ける山岳パトロールの方がいた
夏の短い期間とはいえご苦労な事だ



穂高の山頂に何人もの人が居るのが見えたので 山頂に立ち寄るか少し迷ったけど 
前に来たときはガスと強風で眺めも何も無かったのを思い出し
せかっくの晴れた日だからと 祠のある方に向かった

でも 狭い山頂に大勢の人が居たので あえて祠に参ることはしなかった
前に来たときにきちんと頭を下げてお参りしてあったので
今回はどうか勘弁していただきたい
と祠を見上げてそう言い訳をした 周りに人が居たので声にはださなかったけどね





ここから先は 思っていた通りの静かな稜線歩きとなる

そうそう 以前素通りしたジャンダルムにも立ち寄った

岩峰の基部に三つほどザックが置いてあったので 自分もそれに習ってカメラだけをブル下げて岩にかじりついた
上は先の山頂と違い広い頂きだ
そこには数人の人がいて 皆快晴微風の中のんびりと景色を眺めていた
本当にのんびりって言うのがピッタリな感じだったんだよ いろんな意味でね

遠くを見渡す事はできたけど --- それも不満のない景色だった --- すでに遠景は霞がかかったようにぼんやりとしていたから
あまりのんびりしていてもいけないと --- さもないとまた夕立に叩かれかねないから --- さっさと岩峰を下りて先へ進む事にした

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コブ尾根の頭ら辺だろうか 多分その辺りで一息つく

遠くの景色は相変わらず霞んでいたけど
まだ雨を降らせるまでの雲は湧いて来てはいなかった

足の速い人らと天狗のコルより手前ですれ違う
早いですねと声を掛けると ”夕立に会うのが嫌だから早く出てきた” と言っていた
そうだよね 誰しも雨の中を歩くのは嫌だからね


あんな岩稜でも草や花が観られる
しかし 残念ながら高山植物に限った事ではないが 草木や花の名前/種類には疎い
それでもそんな場所で咲いいる花を見つけたりすと 柄にもなく立ち止まって眺めたりはするのだ
確り立ち止まり ときに屈んで花や葉っぱの裏っかわを覗き込んだりもする

実は 立ち止まったり花を観察するのは休憩するための言い訳なんだけどね
といっても誰もいないので何方に言い訳する必要もないんだが

時にそんな草花に気を取られながら進むんだけど
そうしていると たまに進むべきコースを外す事がある
なんでだろうね そこに咲いてる花を見つけるまでは確りとレールの上にいたはずなのにね
沢沿いなんかでもいわなを眺めているうちに 余計なヤブ漕ぎに嵌ってたりとかね
とにかく何時もそん感じなんだな 

でも 此処らではもう少し気をつけるべきなのかも知れない
特に ここは人気のエリアなのだ この辺りでは誰に気兼ねすることなくというのはちょっと通用しない雰囲気がある
何時もの ヒト気のない 忘れ去れた感が漂う うらぶれた尾根や小さな沢を辿るのとは違うからね

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天狗のコルでのすれ違いがピークだった
三組か四組か とにかくそれ位たくさんの人とコルの前後で挨拶を交わした

天狗のコルを過ぎた頃からかな
いよいよ暑さもピークになって来たとみえて雲がまた少し湧き出し遠くの山が隠れはじめた



16突然だけど 実は 休憩中に地衣類を凝視する事がよくある
ワタシは岩に張り付く?この黄緑色の地衣類(模様)が大変気に入っている
本当のところ 愛してやまないと言っても過言ではないかもしれない これは決して大げさではない

とにかく休憩中に水をがぶ飲みした後
その場でいつものように地衣類を眺めていた
すると蟻が何かを運びながら亀裂を辿ってこっちへやってきた

その時 蟻が背負っていたのは なんと岩茸だった

いや正確には ”これは岩茸を運んでいるに違いない” とそう思い込んだ
だから ”へえ蟻も岩茸喰うんだ、、、” とまるで聞き手がいるかのように声にだした
おまけにそんな他愛のナイ事がなんだかすごく嬉しくて
笑っていたような気がする 口を --- ほーって --- すぼめてね 

そう自身にとっては新発見だったからね 少なくともこの時は
(実は それは岩茸なんかじゃくただのナイロンテープか何かの切れ端だった)



そんな幸せな岩稜歩きも突然終わる
でも岩が終わったところが車を置いたあの駐車場ではないのだよ
そんなあっけない終わりじゃ台無しだからね

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岩が終わると最後のお楽しみとしてこんな土の道が現れる
その道はちゃんと土色をしていて 脇は緑一面の絵に描いたような道がだよ
またまたこれもだ まったくもって他愛のない事なんだが こんな事もまたもや嬉しい

このあたりの木は それは低くて木なんて言えるか怪しいもんだけれど
それでも 木さえも生えていなかった岩稜に比べたらここらは森のようだよね

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岩山が圧倒的に素敵なのには同意するけど 
それよりもちょっとだけ森のほうが好きなんだな
多分地衣類と同じ位に かもしれないけど とにかくそうなんだよね 多分

そうそう ”森ではさかな釣もできるから” だからかもしれないね

まあ如何でもいいけどさ
理由なんてのは大した意味もないし 
それに いちいち理由なんか探してるとく 一気にシラケちゃうかからね

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2015/08/05 穂高山荘テン場〜西穂山荘〜ゴンドラ〜鍋平駐車場

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